大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和52年(行ウ)95号 判決 1978年5月26日

東大阪市足代北二丁目五二番地

原告

幸福不動産株式会社

右代表者代表清算人

野村清美

東大阪市永和二丁目三番地

被告

東大阪税務署長

安藤敏郎

右指定代理人法務事務官

大河原延房

右指定代理人大蔵事務官

森本圭治

安久武志

畑健治

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の申立て

一、原告の申立て

1. 被告が、原告に対し、昭和五一年一月三一日、原告の昭和四九年一二月一日から昭和五〇年四月六日までの事業年度の法人税についてした更正処分を取り消す。

2. 訴訟費用は被告の負担とする。

二、被告の申立て

主文と同旨

第二、当事者の主張

一、原告の請求の原因

1. 原告は、不動産の賃貸、建売りを業とするものであるが、昭和五〇年四月六日解散した。

2. ところで、原告の各事業年度の定めおよび各事業年度の課税標準である所得の金額または欠損金額は別表記載のとおりである。

3. そこで、原告は、所轄税務署長である被告に対し、昭和五〇年四月六日以後一年以内に、法人税法第八一条第四項、第一項に基づき、昭和四九年一二月一日から昭和五〇年四月六日までの事業年度(以下第一二期事業年度という。)を欠損事業年度とし、昭和四八年六月一日から昭和四九年五月三一日までの事業年度(以下第一〇期事業年度という。)を還付所得事業年度として、法人税二六、六一八、三一八円の還付を請求したところ、被告は法人税二三、九九〇、三七一円について還付のための支払決定をした。

4. ところが、被告は、原告に対し、昭和五一年一月三一日、第一〇期事業年度が第一二期事業年度の還付所得事業年度に当たらないとして、第一二期事業年度の法人税額を二三、九九〇、三〇〇円とする更正処分(以下本件更正処分という。)をした。

5. しかし、第一〇期事業年度が第一二期事業年度の還付所得事業年度に当たることは以下述べるとおりであるから、本件更正処分は取消しを免れない。

そもそも、法人税法第八一条の趣旨は、法人がある一年の事業年度において相当の所得があつたが、次の一年の事業年度において経済情勢の変動等なんらかの事情によつて欠損を生じたときに、当該法人に対し、前の事業年度の所得に対する法人税を還付して税額を調整し、実質課税の原則および負担公平の原則を実現するところにある。

このような趣旨に従つて、同法条第四項は、法人が解散等した場合における欠損事業年度を解散等の「事実が生じた日前一年以内に終了したいずれかの事業年度」(本件の場合、第一〇期事業年度および昭和四九年六月一日から昭和四九年一一月三〇日までの事業年度(以下第一一期事業年度という。)または「同日の属する事業年度」(本件の場合、第一二期事業年度)とした。しかして、原告に欠損が生じた事業年度は第一一期事業年度および第一二期事業年度であるから、本件の場合、法人税法第八一条にいう欠損事業年度とは第一一期事業年度および第一二期事業年度をさすこととなる。

そうすると、前記年単位の原則に従えば、同法条第四項で準用する第一項の還付所得事業年度、すなわち、欠損事業年度「開始の日前一年以内に開始したいずれかの事業年度」とは、本件の場合、欠損事業年度である第一一期事業年度開始の日前一年以内に開始した第一〇期事業年度を指すというべきである。

被告の主張するところによれば、原告が従来どおり第一一期事業年度を昭和四九年六月一日から昭和五〇年五月三一日までの一年と定めていれば第一〇期事業年度がその還付所得事業年度に当たるのに、原告がたまたま第一一期事業年度を六か月にして早急に法人税の還付を受け事業を継続しようとした(原告は、すでに、第一一期事業年度の欠損金に関しては繰戻しによる法人税の還付を受けている。)ため第一〇期事業年度が昭和四九年一二月一日から昭和五〇年四月六日までの事業年度、すなわち第一二期事業年度の還付所得事業年度に当たらないこととなり、その結果、原告が第一二期事業年度の欠損金に関して繰戻しによる法人税の還付を受けられないこととなる。そうだとすると、被告の主張は、実質課税の原則、負担公平の原則に反するばかりでなく、所得営業期間一年を欠損営業期間六か月に対応させるものであつて憲法第一四条にも違反するといわなければならない。

6. よつて、原告は、前記のような裁判を求める。

二、被告の答弁

原告の主張する請求原因事実第1ないし第4項および第5項のうち原告がすでに第一一期事業年度の欠損金に関して繰戻しによる法人税の還付を受けていることは認めるが、その余の事実は否認する。

欠損金の繰戻しによつて還付される法人税は、欠損事業年度開始の日前一年以内に開始した事業年度(還付所得事業年度)に所得がある場合に、右所得に対する法人税の額を基礎として計算されるものである(法人税法第八一条第四項、第一項)。

本件の場合、欠損事業年度である第一二期事業年度開始の日前一年以内に開始した事業年度(還付所得事業年度)は第一一期事業年度であつて第一〇期事業年度ではない(第一一期事業年度に所得がなかつたことは原告の認めるところである。)から、原告が第一二期事業年度の欠損金に関して繰戻しによる法人税の還付を受ける余地はない。

第三、証拠

一、原告

甲第一号証を提出した。

二、被告

甲第一号証の成立は認めると述べた。

理由

一、原告の主張する請求原因事実第1ないし第4項は当事者間に争いがない。

二、原告は、第一〇期事業年度が第一二期事業年度の還付所得事業年度に当たると主張する。

しかし、法人税法第八一条第四項で準用する同法条第一項にいう「還付所得事業年度」とは「当該欠損金額に係る事業年度・・・・開始の日前一年以内に開始したいずれかの事業年度」をさすのであるから、第一二期事業年度の還付所得事業年度となりうるのは昭和四九年一二月一日前一年以内である昭和四九年六月一日に開始した第一一期事業年度のみであり(なお、第一一期事業年度に所得がなく欠損を生じたことはさきに判示したとおりであるから、原告が第一二期事業年度を欠損事業年度として欠損金の繰戻しによる法人税の還付を求めることはできない。)、第一〇期事業年度でないことは明白である。

三(一)  たしかに、原告が事業年度を変更しなかったならば、第一一期事業年度と第一二期事業年度とは一事業年度となり、したがって、第一〇期事業年度は右事業年度の還付所得事業年度に当たることとなるから、原告は、右事業年度(昭和四九年六月一日から昭和五〇年四月六日までの事業年度)の欠損金を繰り戻して、すでに還付を受けた法人税(原告が第一一期事業年度の欠損金に関して繰戻しによる法人税の還付を受けたことは当事者間に争いがない。)のほか、二三、九九〇、三七一円に相当する法人税の還付を受けることができる筈であり、そうすると、右のような場合と本件のように原告がたまたま事業年度を変更した場合とでは権衡を失し、右解釈が不当であるかのようにみえる。

(二)  ところで、いわゆる事業年度独立の原則(法人税法第二一条)を貫くときは所得額に変動のある数年度を通じて所得計算して課税するのに比較して税負担が過重となる場合が生ずるのでその緩和を図る必要がある(最高一小昭四三・五・二判、民集二二巻五号一〇六七頁)。そこで、法人税法は、ある事業年度に欠損が生じた場合、一定の要件のもとに、当該欠損事業年度開始の日後五年以内に開始した事業年度にその欠損金額を繰り越す(法人税法第五七条第一項)こととし、さらに、本件のように法人が解散したときにおける清算所得の金額は従前の事業年度において生じた欠損金額に相当する金額を控除して計算する(法人税法第九二条、第九三条第一項)こととしたが、それにとどまらず、法人は当該事業年度より前の事業年度にその欠損金額を繰り戻すことができる(法人税法第八一条)こととして、その限度において事業年度の障壁を取り払ってその成果を通算することとした(もつとも、法人の解散等法人税法第八一条第四項、同法施行令第一五六条の定める事実があるときは、実際上、法人税法第五七条第一項の規定の適用を受けることが困難となるが、そのため法人税法第八一条第四項は右事実が生じた事業年度以外の一定の事業年度をも、欠損金額があるとき、欠損事業年度とし、これに対応して還付所得事業年度となる事業年度を増加させ、よつて欠損金の繰戻しによる法人税の還付を受けやすくしている。

しかし、欠損金の繰戻しは、欠損金の繰越しと異なり、これによって法人税の還付を求めるかどうか、また、どの範囲で法人税の還付を求めるかは当該法人の自由な意思にかからしめられており(法人税法第八一条第一項、第四項。ただし、還付を受けるべき金額の計算の基礎となつた欠損金額は繰越しの対象となる欠損金額から除外される等同一の欠損金について欠損金の繰戻しと繰越しとを重複してすることはできないものとされている(法人税法第五七条第一項、第八一条第四項。)、しかも事業年度は法人が自から定め、変更することができる(法人税法第一三条第一項、第一五条)から、欠損金の繰戻しによる法人税の還付を受けようとする法人は、自已の判断によって、欠損事業年度の期間を一年より短かくして早急に比較的少額の法人税の還付を受けることも、欠損事業年度を一年として後れて比較的多額の法人税の還付を受けることもできる(繰戻しによる還付を受けるべき金額の計算の基礎となつた欠損金以外の欠損金が翌事業年度以降に繰り越されることとなるのは当然である。)のである。

(三)  以上によつて本件をみるに、第一〇期事業年度の期間は一年であつたが、原告が第一一期事業年度の期間を六か月に変更し、昭和五〇年四月六日解散したこと、および、原告がすでに第一一期事業年度の欠損金に関して繰戻しによる法人税の還付を受けたことは当事者間に争いがない。そして、弁論の全趣旨によれば、原告が第一一期事業年度の欠損金に関して繰戻しによる法人税の還付を早期に受け、これによつて原告が当時陥つていた窮境を脱し、経営の建直しを図ろうとしたものであることが推認される。

そうすると、原告は、営利法人としてその利害得失を十分考慮したうえ、事業年度の変更ならびにこれに伴う第一一期事業年度の欠損金の繰戻し等一連の措置をとつた筈であるから、第一二期事業年度の欠損金に関して繰戻しによる法人税の還付を受けられないことは原告の予期すべきところであつて甘受するのが当然である(なお、第一二期事業年度の欠損金は繰越しとなり、最終的には清算所得の金額から控除されることになる。)。

(四)  したがって、法人税法第八一条をさきのように解することはなんら実質課税の原則、負担公平の原則または憲法第一四条に反するものではなく、本件更正処分に違法なところはない。

四、よつて、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石川恭 裁判官 増井和男 裁判官 西尾進)

別表

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例